第11回全国大会優勝:金沢大学人間社会学域学校教育学類附属高校(石川)小菊聡一郎くん
ボストンに行った。
向かった先はジョン・ハンコック。エコノミクス甲子園のスポンサー、「マニュライフ生命」と同じグループの会社だ。ハンコックはアメリカ国内で4千人もの社員を抱える大企業で、保険や投資の設計・募集を行っている。まず気づいたのは、日本と比べて一人一人に与えられているデスクが広く、あまりスペースを気にせずに作業ができるようになっていることだ。また、実際に働いている方にお話を伺ってみたところ、全員ではないにせよ多くの社員が9時から17時まで働くのだそうだ。日本でもグローバル化の潮流の中で従来の年功序列型賃金が崩壊しつつある一方でなぜか労働時間はあまりグローバルスタンダードに近づいていかないのは実に解せぬものだ。
それはともかく、ボストンは良いところだった。ハンコックのビルも、街並みも、そして海も、穏やかでとてもお洒落だった。日本人はあまり多くないらしいが、とても日本人向きの町だと思う。
ボストンの話はこのくらいにして、この旅行は「NY研修旅行」、NYについてである。
初日のフライトは急病人を出したり入国審査に2時間半かかったりして予定より大幅に遅れ、ホテルに到着したのはmidnight、タイムズスクエアの喧騒をよそに吸い込まれるがごとに眠った。翌日はアクティビティーとして自然史博物館とメトロポリタン美術館を回った。自然史では生物を中心に見て回る相方とは対照的に、動物がともかく苦手な自分は文化や歴史の展示を見た。世界史を勉強すると展示を見るのが楽しくなるものですね。メトロポリタンではギリシア・ローマ美術やヨーロッパ絵画を中心に見た。美術に関してはあまり勉強してこなかったが、それでも世界史の資料集に乗っている作品を実際に見たり、美しいモネの絵を見たりした時は感動した。今度来るときはもっと美術について学んで味わえるようになりたい。
3日目のボストンに引き続き4,5日目も企業を見学した。まずブルームバーグ、金融情報・金融業向け端末の大手だ。この会社で特徴的だったと感じたところは2つあり、一つは建物が馬蹄型になっていて端から他方の端がみられるようになっている、あるいは会議室のガラスに加工がしてあって正面から見ると透明に見えるが角度をつけると不透明に見えるなど、透明性とプライバシーを上手に両立する空間づくりになっているところだ。もう一つは、食べ物や飲み物を自由にとって談笑できるスペースがあったことだ。他の部門の人とも交流する機会を持つことで柔軟なアイデアが生まれることを期待して設けられたものだと思われる。日本でも一部のIT企業が取り入れているようだが製造業などにも遍く普及したらいいと思う。次に訪れたのはシティ、世界160か国におよそ2億の顧客口座を有する世界有数のグローバル銀行で、通常の銀行業務に加え綿密な企業・市場調査をベースにした投資家への投資アドバイスを行っている。各企業と月に一度接触する機会を持ち、情報を仕入れたり、あるいは、例えば新しいスマートフォンが発売されると投資家の目の前で実際に分解して使われている部品を調べたりするなど企業情報を徹底的に調べ上げることで投資家に有利な情報を提供している。自分でどのような方法をとって調べるか考えて実際に良い運用成果が出た時の悦びというのは計り知れないと思う。さて、そのあと訪れたのはNY証券取引所の近くにある貨幣の博物館だ。エコノミクス甲子園で勉強するような「楽しい」事項が説明してあった。そう、そこで買ったブル・ベアパペットがとてもかわいい。リバーシブルになっており、インテリアとしてオススメだ。強いて言うならベアのほうがかわいい(うしさんごめんなさい)。さて、いよいよNY証券取引所、昨年の新潟は場の寄付きの時に訪れたそうだが、今年は午後4時の大引けだった。株価掲示板がたくさんある部屋(テレビでよく映るところ)に通された。株式や債券などの有価証券以外にも先物などのオプション取引も行っているそうだ。3時59分30秒になると皆で一斉に拍手をはじめ、同50秒、大引けを告げるクロージングベルが轟く。その時の興奮といったらない。
興奮冷めやらぬまま向かうはオフ・ブロードウェイのミュージカル、ブルーマン。先代のNY研修旅行の話も踏まえて、今回は英語があまりできなくても楽しめるパフォーマンス型ミュージカルにした。蛍光塗料をふんだんに使ったドラムパフォーマンスや陣内智則が得意としたような映像ネタ、観客が一体化するペーパーなど、非常に楽しかった。エコノミクス甲子園にこれから参加しようと思っているみなさんもぜひNYにいって、見てください!絶対後悔はしません!
5日目、ラッセル・インベストメントさんにお邪魔した。投資家などに対して、大きなリターンを得るアクティブ運用のプランを提案している。その時はじめて知ったことだが、現在先進国がこぞって行う量的緩和政策は市場の資金をだぶつかせ、金利を押し下げて株式投資の利回りを下落させてしまう。現在の株式投資はパッシブ運用を行うと利回り1パーセント程度になる。だからリスクは大きくなっても利回り5%程度が期待できるアクティブ運用を望むクライアントも多数いるのだ。(ただしアクティブ運用は売買手数料が余分なコストになってリターンが悪くなるためパッシブ運用が近年は評価されつつある)
今回の研修で英語に苦労したのはこのラッセルへの訪問とマクドナルドだった。ラッセルのほうで英語ができなかったのは内容が難解で知らない単語が次々に出てきたため、マクドナルドで通じなかったのは騒音の中で早く喋られたためだ。課題は見えた。練習して英語を十分に使いこなせるようになりたい。
さて、話を戻すと、その後NY日本国総領事館で財務省からNYに派遣された園田さんに現在のリアルな米国についてお話を伺った。まずはトランプ大統領についてのお話。以下その話を聞いて自分が考えたことである。
今回の大統領選挙は非常に不人気な候補同士の対決で直前まで支持も拮抗しており、どちらがなってもおかしくない展開で興味深く見守っていた。結局トランプが制した。終盤に自分の聞いた米国の情報の限りでは優勢はトランプにありそうだったので「やっぱりそうか…」という感じだった。これまでの大統領と一線を画する候補だっただけに本当に就任すると予想していなかった人もいるかもしれない。そうだとしたらその人はこれまでの漠然とした常識に無意識のうちに囚われていたのかもしれない。確かにトランプはあの暴言で、世間に大統領として適さないというイメージを持たれているし、ポリティカルコレクトネスの観点からいっても好ましくないのは確かだ(自分は大統領になるのにポ リティカルコレクトネスが何より大事だとは思わないが)。しかし今のアメリカの社会が彼のような候補を必要としていたということが園田さんの話を聞いて実感できた。年々進む格差の拡大、製造業の衰退、白人中心社会の崩壊、オバマ政権で世界のリーダーの座を守るために”change”できなかったこと、それらに対する不満が、社会を少なくとも2つに分断した。だからこそ、ヒラリーのような既存政治側の候補以外に、彼女らと対立する非既存路線側の候補がトランプであれ、サンダースであれ、誰かしら必要だったのだ。もちろん彼らの支持者の中には本当は好きじゃない人も大勢いたはずだ。それでもヒラリーなら何も変わらないという失望の裏返しとして彼らに期待を込めて支持したのだ。実際トランプが大統領候補になった。こういう背景があるのであればメディアはそのような社会の構図にも注目するべきである。しかるにメディアはトランプの資質を執拗に問題視し、問題の本質を巧みにすり替えた、既得権益を持つメディアの都合によって。だがトランプは負けなかった。テレビや新聞を味方につけられない分TwitterなどのSNSを駆使して反既存政治の人の支持を取り付けた。そして大統領になってのけた。もちろん自分はトランプの政治にあまり期待していない。たぶんうまくいかないと思う。それでも自分はヒラリーよりもトランプが大統領でよかったと思っている。アメリカ社会の現状が浮き彫りになったのだから。トランプの大統領就任は決して偶然ではなく、蓋然であった。
園田さんには、その他にも米国と日本の経済や意識の違い、米国の金融の現状、米国で働くということについてお話を伺った。どのお話もとても参考になるものばかりだった。
企業視察も大詰めとなり、最後に向かった先はタイガー・パシフィック・ファンド。ラッセルと同じくアクティブ運用のファンドだ。お話を聞いて特殊だと思ったのは、タイガーは内需関連株を中心に投資をされている、ということ。内需株の遷移を読むのは日本人に強いが、一方で外需の動きを読むのは困難であり、お話を伺った武神さんによると内需関連株中心にしているのは内需なら海外資本よりも有利な立場に立てると考えてのことだそうだ。お話は日本人の海外留学に移った。日本経済の強さがかえって海外留学を妨げている、とのことだ。もちろん海外留学をすることが誰にとっても好ましいかと言われるとそれは人によるのでこの言葉をどうとるかというのは人によって違ってくるだろ うが、全体としては海外留学するのに向いている人の機会損失になってしまうことを考えるとネガティブにとるべきだろう。ともかく、国内経済の不安定さは外向きになるチャンスであるということだ。多くの東アジア・東南アジアの国々は日本より外需に頼る足腰の弱い経済であるから、家庭が豊かで優秀な学生はこぞって海外留学を目指すが、日本の強い経済は優秀な人材を東京・大阪・名古屋などの大都市圏に集めるに留まり、国外への意識を弱くさせるのだ。経済が発展して留学できる学生が増える一方でかえって学生があまり留学しようと思わなくなるというのは実に皮肉なことだ。
このような話をした後、武神さんにおごってもらってタイガーの金さんとステーキを食べに行った。金さんも昔日本に住んでいらしたということでとても流ちょうな日本語を話されるので最初日本人の方だと勘違いしていたほどで、全員で金融・経済に限らず様々な話をした。驚きのたくさんある時間だった。
6日目・7日目は帰りのフライト。楽しかった思い出を振り返りながら家に帰った。帰りのフライトもまた遅れが出て、家に着いたのは夜遅くだった。
本当に一週間しか経っていないのかと疑いたくなるほど常に新しい刺激を受け、忙しいスケジュールをこなし、そして目いっぱい楽しんだ今回の研修旅行。
こんなすばらしい旅行を計画し、自分たちの引率を引き受けてくださった金融知力普及協会の鈴木さん、水谷さん、大学生スタッフの縄田さん、岡本さん、そして見学を受け入れてくださった各企業の皆様、本当にありがとうございました。この経験はどんな形であれ必ず生かします。